バーチャルグリッドシステムとは

再生可能エネルギーを大量導入するには電力網の蓄電能力の大幅な拡大が必要です.一方,蓄電池の技術革新は,様々な機器の利便性を高め,今は存在しない新たな機器を誕生させます.バーチャルグリッドシステムは,今後,私たちの周りに増える多様な性能の蓄電池の組み合わせ利用を可能にし,再生可能エネルギー電力の蓄電能力拡大に貢献することを狙っています.そのために,バーチャルグリッドシステムでは,小さな電力システムが大規模な電力プラットフォームに成長できるインターネット型電力プラットフォーム(図1)を目指しています.

インターネット型電力プラットフォームは,ユーザ自身が組み立てる「小さな電力網」をつないで大きな電力網を構成することを可能にします.「小さな電力網」は,蓄電池や小型の太陽電池などの小さな電源を組合わせて大きな電源を合成し,多数の負荷に電力を分配するハブ装置とこれを制御する,クラウド上のコントローラで構成します.「小さな電力網」はユーザの都合で随時,構成される,ユーザ自身にとっての電力網であるため,バーチャルグリッドと呼び,ハブ装置をバーチャルグリッドハブ(Virtual Grid Hub / VG-HUB)と呼んでいます(図2).VG-HUBと電源や負荷とを接続するインタフェースにUSB-C PDと呼ばれる規格を使っています.USB-C PDは,両端子が同じType-Cケーブルで電源と負荷を接続し,USB PDプロトコルを用いて電力の流れをコンピュータ制御できる優れたインタフェースです.USB-C PDは最近,スマートフォンやPCに急速に普及中で,最大100Wまでの電力を流すことができ,同じケーブル接続のまま,電力が流れる向きをコンピュータ制御できます.接続にあたって認証する機能もあり安全が確保されます.低電圧のため,バーチャルグリッドを組み立てるのに専門的な資格は不要です.クラウド上のコントローラが電源や機器の挙動をモニタし解析することにより,ユーザにとって望ましい電力制御を精緻に実現できるようになります.

 図1.バーチャルグリッドシステム

 図2.プロトタイプ

蓄電池や小型太陽電池とVG-HUBで電源を組み立てることにより,コンセントがない場所でも簡単に電源を確保できます.例えば,会議場などで参加者の机に電源を用意するのも容易になります.災害などの非常時にも,普段から使っている蓄電池とVG-HUBを持ち出すことにより非常用電源を構築できます.

世界には電力網にアクセスできない地域に居住する人々が10億人以上います.このような地域では,100Wに満たない太陽光発電パネルと鉛蓄電池を組み合わせた小型の電力システムが既に大量に導入され,引き続き増えています.この原始機的なシステムを今回の技術で高度化,大容量化することにより,今後拡大する巨大な電力需要を捉えていくことができると考えています.